探求型学習についての考察 vol.3

現代の探究学習:カリキュラムへの組み込みと新潮流

21世紀に入り、知識基盤社会に必要な「21世紀型スキル」(問題解決力・クリティカルシンキング・創造性・協働力など)を育むため、各国で探究型学習への注目が再燃しています。国際バカロレア(IB)のカリキュラムや米国のProject Based Learning(PBL)、デザイン思考を取り入れた教育など、学習者主体のプロジェクトや問題解決を取り入れるプログラムが拡大しました。日本でも、2018年の学習指導要領改訂で高校に「総合的な探究の時間」が必修化され、探究学習が正式にカリキュラムに組み込まれています。これにより「生徒が自ら問いを立て、調査・考察し、発表する」学習活動が各地で実践されつつあります。

現代の探究学習の人間観・学び観は、基本的に前述の進歩主義・構成主義の流れを汲みつつ、「アクティブラーニング(主体的・協働的で深い学び)」という形で政策的にも推進されています。子どもは好奇心と関心に突き動かされて学ぶ能動的存在とみなされ、教師は「ファシリテーター」や「学びのデザイナー」として支援に回ることが期待されています。特にSTEAM教育などでは、生徒が自分で問題を見つけ、試行錯誤し、仲間と協働して解を生み出すプロジェクトが重視されます。こうした現代版探究学習は、一見するとルソー以来の児童中心・経験重視の考えが開花したように見えます。

しかし現実には、理想と実践のギャップも指摘されています。例えば日本の高校現場では**「生徒の主体性を引き出すのが難しい」「指導と評価に手間がかかる」「時間不足で表面的な探究に留まる」といった課題が報告されています。週に1時間程度の探究では十分深められず、受験科目の指導優先で探究の時間が削られることもあります。また、生徒が自由にテーマ設定と言っても興味が湧かず動機づけが低いケース、あるいは問いが発散しすぎて収拾がつかなくなるケースもあり、好奇心をうまく刺激し持続させる指導スキルが教師に求められています。要するに、「好奇心任せ」でうまくいくほど現場は単純ではないということです。この点については後の章で、最新の科学知見に照らして詳しく評価します。

教育に内在した「人間観」「学び観」の変遷


上述の歴史的背景から、探究型・好奇心重視の学習に関する人間観と学び観の変遷をまとめます。

18〜19世紀の人間観

ルソーやペスタロッチらは「子どもは本来善で主体的に学ぶ存在」と捉えました。学び観は「子どもの内発的欲求に沿って自然に学ばせる」であり、学習は子どもの好奇心・必要感が引き出す自発的過程と考えられました。教師は干渉を最小にして環境を整える役割です。

20世紀前半の人間観

デューイやモンテッソーリに代表される進歩主義では「子どもは経験を通じ成長する能動的存在」。学び観は「経験=探究のプロセス」で、子どもが興味を持つ問題に取り組み、試行錯誤と振り返りから知識を獲得すると考えました。学校は社会の縮図であり、学習は生活そのものとされました。

20世紀中期(行動主義)の人間観

子どもを「強化子(reinforcer)に反応して行動を習得する存在」と見なしました。学び観は「刺激と反応の連合」で、反復練習と即時フィードバックにより習慣形成するものです。好奇心や内発的動機は軽視され、外発的動機づけ(ご褒美・評価)が主なドライブと考えられました。

20世紀後半(構成主義)の人間観

子どもは「自ら認知構造を構築する主体」。学び観は「能動的な知識構成」であり、新たな情報を既有の認知枠組みに取り込み再編成するプロセスです。好奇心はその駆動力として重視され、学習とは未知への問いを解決するプロセスと再定義されました。社会的相互作用の視点も入り、学びは他者との協調的探究で深化すると見ました。

21世紀の人間観

子どもは「自己調整学習者」であり、多様な情報資源を活用しながら生涯にわたり学ぶ存在。学び観は「主体的・対話的で深い学び」で、単なる知識習得ではなくメタ認知的な深い理解やスキル習得まで含みます。好奇心・関心・目的意識が学習のエンジンであり、教育はそれを喚起し方向付けることで最大の効果が出ると考えます。

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