探求型学習についての考察 vol.7

Mission-Based Learning (MBL) という新しい実践

Missinon-Based Learningとは?

最後に、現在び場が実践しているMission-Based Learning (MBL)を伝統的な探究型学習と比較し、その思想的連続性と断絶、到達点と限界を明確にします。

MBLとは、米スミソニアン協会の教育ラボが提唱した学習アプローチで、
「ミッション(使命)= 社会的課題の解決」を軸に学習をデザインする
ものです。Mission-Based Learning(MBL)とは、社会課題の解決を「ミッション」として学習の中心に据える、21世紀型の教育アプローチです。単なる知識獲得ではなく、実社会に変化をもたらす「実装」までを視野に入れたプロジェクト型学習であり、好奇心・協働・創造性・批判的思考を統合的に鍛えることができます。

この概念を先進的に体現しているのが現在ハーバード大学などよりもアメリカで人気となっているミネルバ大学です。世界7都市をキャンパス代わりに移動しながら学ぶこの革新的な大学では、すべての学びが「実社会への介入」と結びついています。学生たちは都市のリアルな課題——気候変動、都市交通、移民政策など——に向き合い、現地の政府やNPOと協働して解決策を提案・実装するミッションに挑みます。


ミネルバ大学のMBLは、AI時代に求められる「自律的な問題解決者」の育成に特化しており、従来の探究型学習を進化させた教育モデルといえます。問いを立てる力にとどまらず、世界を動かす行動へとつなげる力を育む。 それがMission-Based Learni人気となっている

探求型学習との共通点

MBLは理念上、従来の探究学習と強く連続しています。その根底には**「学習者の主体性と内発的動機づけを尊重する」という児童中心主義の精神があり、学びの原動力として好奇心・関心・情熱を位置づける点で共通しています。実際、MBLでも生徒は与えられたミッションに対し自分なりのアプローチで調査・創作を行い、そこでは発見の喜び課題解決のワクワク感が推進力となります。例えばび場が進めているMBLプロジェクト(中学生と小学生の異年齢チームで地域のシニアの方とボードゲームでの交流を推進し孤立と認知予防に取り組む)でも、子どもたちは企画やアイデアをブレストするなかで、「もっとより居心地のいい場を創るには?」「どうすればボードゲームのルールを簡単に伝えられるか?」と自然に探究モードに入りました。これは従来型の自由研究やプロジェクト学習と何ら変わらない好奇心駆動の学習そのものです。

また「実社会とのつながり」を重視する点も連続性の一つです。デューイが「学校を社会の縮図に」と説いたように、探究学習は学んだことを社会で役立てることを志向してきました。MBLはそこをさらに推し進め、最初から社会課題をミッションとして設定します。これはPBL(課題解決型学習)の発展形とも言え、第二次大戦後に医学校で始まったProblem-Based Learningや、1990年代以降のProject-Based Learningの理念とも軌を一にします。要するに「実際の問題を解決する過程で学ぶ」**というコンセプトであり、MBLはそれを現代のグローバル課題や地域課題の文脈で再構成したものです。したがって思想的に目新しいというより、過去からの探究学習系統の延長線上にMBLが位置すると捉えるのが適切でしょう。

さらに、MBLは協働学習学習コミュニティの考え方も継承しています。ミッションの多くは一人では成し遂げられず、チームで役割分担し意見を出し合う必要がありますen.wikipedia.org。これは進歩主義教育以来の協同的探究の伝統に沿うものです。MBLの実践では、生徒が互いにフィードバックし合ったり、外部の専門家とネットワークを築いたりする場面が設定されます。こうしたソーシャルラーニングの側面も探究学習の系譜にあります。

探求型学習との違い

一方で、MBLには従来の探究型学習と異なる新機軸も見られます。その一つが**「ミッション」というフレーミングです。従来の探究は生徒自身の問いから始まることが多かったのに対し、MBLではあらかじめ教師やプログラム提供者が社会的意義のある課題をミッションとして設定する場合が多いです。例えば「地域の観光課題を解決するプロジェクト」や「高齢者が楽しめるゲームを開発せよ」といった具合です。この点、探究テーマの決定権が教師側にある程度残るとも言え、従来の自由度の高い探究に比べると半構造化されたアプローチです。もっともMBLでは「制約はなるべく少なくし、生徒の創造性を妨げない」ことも推奨されており、ミッション設定以外は自由度が担保されるよう工夫されます。したがって完全にトップダウンというわけではありませんが、出発点に明確な指令があるという違いは指摘できます。この「ミッション」という言葉はゲームから借用されたものであり、そこにはゲーミフィケーションの発想も垣間見えます。つまりゲームのクエストのように、明快な目的と達成感を用意することで学習者のモチベーションを喚起する狙いです。従来の探究が内発的動機だけに頼り時に息切れしたのに対し、MBLは「ミッション達成」という外発的動機づけ要素**もうまく利用しているとも言えます。これはある意味、前章で述べた「内発と外発のバランス」を実現しようとする工夫かもしれません。

第二の特徴は、アウトプットを社会に公開・発信することが組み込まれている点ですen.wikipedia.org。従来の探究学習も学内発表や作品展示はしていましたが、MBLではSNSや地域イベント等で積極的に成果を世に問うことが求められますen.wikipedia.org。例えば先述のボードゲーム開発MBLでは、完成品を地域の児童館でイベント開催して遊んでもらいフィードバックを得る計画があります。こうしたリアルなエンドユーザーとの接点を持つことは、生徒にとって大きな刺激と責任感を生みます。公開するからには良いものを作ろうと努力しますし、他者からの反応は次の学びへの新たな情報ギャップ(疑問や改善点)をもたらします。このループ構造は、従来型が閉じた教室内で完結しがちだったのと比べ、大きな断絶と言えます。インターネット時代だからこそ可能になった広がりであり、MBLの醍醐味でもあります。

第三に、MBLは21世紀ならではのリソース活用を前提としています。具体的にはICTの積極的導入(調査にウェブやデータベースを使う、発信に動画・SNSを使う)や、博物館・地域団体・企業など教室外のリソースとの連携ですen.wikipedia.orgcareer-ed-lab.mynavi.jp。従来の探究でも校外学習や聞き取り調査などは行われていましたが、MBLではそれがミッション達成に不可欠な要素として組み込まれます。例えばスミソニアンのMBLカリキュラムでは博物館の所蔵品や専門家へのアクセスを組み入れており、生徒はネット上で世界の情報源に当たったり直接問い合わせたりしますen.wikipedia.org。このように学習環境をオープンに拡張している点もMBLの特徴です。思想的には「学習は学校の垣根を越えて起こる」という生涯学習・コネクテッドラーニングの理念に通じ、進歩主義者が夢見た「社会に開かれた学校」の現代版と言えます。

次回予告

次回は、実際にこのMission-Based-Learningの到達点と見えてきた課題について考察します。

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