探求型学習への考察 vol.8

MBLの到達点と課題

MBLの到達点・強み

MBLの到達点(強み)としてまず挙げられるのは、以上のような特徴によって学習者のモチベーションと学習成果を高い次元で両立させようとしている点です。探究型学習の理想は内発的動機づけですが、先述のようにそれだけでは沈滞するリスクがありました。MBLはミッションという形で適度な構造と外発的要素を持たせ、ゲーム的な没入感社会的意義の実感を与えることで、生徒のやる気を効果的に引き出します。実際、MBL実践校の報告では生徒のエンゲージメント(主体的参加度)が非常に高く、「休み時間も取り組む」「自宅でも続きを考える」といった自主性が見られたそうです。また**「自分たちの活動が誰かの役に立つ」**という経験は、生徒の自己効力感や社会参画意識を育みます。これは従来の探究学習が「調べて発表して終わり」になりがちだったのを越え、学びの成果がリアルワールドに影響を持つという次元に押し上げた点で教育的意義が大きいです。

さらにMBLは複合的なスキル育成に優れています。ミッション達成には問題解決力だけでなく、情報リテラシー、コラボレーション、プレゼンテーション、クリエイティビティなど多面的能力が必要ですen.wikipedia.org。MBLのカリキュラム設計はこれらを統合的に鍛えるよう工夫されており、まさに21世紀型スキルを包括的に涵養します。例えば先のボードゲーム開発では、企画立案(デザイン思考)、試作品制作(ものづくりスキル)、説明書執筆(文章力)、テストプレイと改良(批判的思考と創造性)、イベント運営(リーダーシップ・対人コミュニケーション)と、一連の過程で多彩な力が磨かれました。従来の教科ごとの枠を超えた学際的・実践的な学びができる点はMBLの強みです。

MBLの限界・課題

一方、MBLにも限界や課題があります。第一に、その実践には高度なマネジメントが求められることです。ミッション設定からリソース確保、外部連携、進捗管理、最終発表の場づくりまで、教師の負担や必要スキルは相当大きくなります。全教師がこれをこなせるわけではなく、現にMBLはまだ一部の先進的な学校・教師に限られています。全教育への普及には、カリキュラム編成上の柔軟性やチームティーチング、外部専門家の協力など環境面の整備が不可欠でしょう。

第二に、評価の問題があります。MBLのような複合的学習では、テストで○×を付けるわけにはいきません。プロセスと成果をどう評価しフィードバックするかは難題です。適切な評価指標を設計しないと、生徒は「楽しかったけど自分がどれだけ成長したか分からない」となる恐れがあります。これは探究学習全般の課題でもありますが、MBLは社会発信がある分成功・失敗がはっきりしており、成果が出なかったチームの扱いなど心理的ケアも含め配慮が必要でしょう。


第三に、知識の体系的習得との両立です。MBLでは教科横断的に学ぶため、伝統的教科知識をどのように身に付けるかが課題になります。理想的には各ミッションの中で必要に応じ教科学習が行われるべきですが、カバーしきれない分野も出ます。カリキュラム全体として、MBL型の深い学びと系統的知識学習をどう組み合わせるか検討が必要です。現在、多くの学校では通常の教科学習+一部でMBLというハイブリッドになっていますが、それだと従来型カリキュラムに追加負担をかけているだけとも言えます。真に両立するには、教科の中にミッション要素を組み込むような設計(例えば数学の単元で地域統計調査ミッションを行う等)が求められるでしょう。

次回予告

次回はび場でMission Based Learningをどのような考え方で進めているかを紹介したいと思います。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次