第3章:認知科学 ——「知性とは何か」を再定義してきた科学が直面する転換点
認知科学とは何か?
認知科学(Cognitive Science)は、人間の知性・意識・学習・言語・記憶など、「知る」ことのメカニズムを多角的に解明しようとする学際的な研究分野です。
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心理学、神経科学、人工知能、言語学、哲学、人類学などの知見を統合し、
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「人間の心(Mind)はどのように世界を理解し、行動を選んでいるのか?」を探ります。
近年では「脳=情報処理システム」と捉える計算論的アプローチに加え、「身体性」「環境との相互作用」「社会的文脈」などを重視する4E認知科学の潮流も生まれ、
知性の定義が大きく揺れ動いています。
知性とは“内部にあるもの”ではなく、“生起する過程”である
かつて、知性とは脳の中に蓄積された知識・スキル・論理構造であるとされてきました。
しかし認知科学の進展により、以下のような理解が進んできています:
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知性は「脳の中」に閉じたものではなく、身体、道具、環境との相互作用から生まれる
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知識とは「記憶している情報」ではなく、「状況に応じて意味を再構成する能力」
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知的行為とは、行動・身体・社会・文化の中で分散的に成立するダイナミクス
このような視点では、AIによる情報処理の優位性は、「人間らしい知性」の一部にすぎず、知性=問題解決力ではないという再定義が起きています。
知性のコモディティ化によって浮上する「生きられた知性」
AIが推論・翻訳・要約・記憶といった機能を担うようになると、認知科学の問いは次のように転換していきます:
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人間の知性は、何をする能力として残るのか?
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単なる情報処理ではなく、「意味づけ」や「関係性の調整」へ
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AIには持ちえない「即興性」や「状況感受性」とは何か?
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身体をもち、世界の中に“いる”存在としての感性
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意識とは何か?主体性とは何か?という哲学的問いが、再び科学の中心に
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特に、注意、感情、共感といった主観的体験の科学が加速
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び場の実践は、「知性を固定しない」学びを支えている
び場の学びの特徴は、まさにこの動的で状況依存的な知性観を体現しています。
① 探究と対話の中で「意味が立ち上がる」
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あらかじめ正解を教えるのではなく、子どもたち自身が問いを立て、対話や観察・行動の中で少しずつ「自分なりの意味」にたどり着くプロセスが重視されます。
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これは、「知識の受け渡し」ではなく、「知の即興的生成」に近い営みです。
② 身体・環境・他者との“共調”から生まれる知性
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び場では、プロジェクト活動や演劇・アートなどを通じて、
知性が身体・表現・関係性を通して立ち上がる瞬間が多くあります。 -
これは、認知科学でいう「拡張された心(Extended Mind)」の実例とも言えます。
③ 子どもも大人も「知るとは何か?」を共に問い続ける
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認知科学が示すように、知性の定義は流動的で、状況によって姿を変えます。
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び場は、「知性とは何か?」というメタ認知的な問いを、まず大人が持ち続けています
結び:知性が安価になる時代にこそ、「意味生成の力」が問われる
認知科学の視点から見ると、AI時代の人間性とは、
単なる「賢さ」ではなく、**状況の中で意味を編み、行為を選ぶ“感受性と即興性”**にあります。
そしてそれは、び場の実践が育てている「問いを生きる力」そのものなのです。