2025年9月23日 び場ボランティアプロジェクトレポート

2025年9月23日 び場ボランティアプロジェクトレポート

ボランティアプロジェクトの概要

び場のボードゲーム交流プロジェクトでは、ボードゲームを通じて地域のシニアと交流し、認知症予防や孤立防止に取り組んでいます。子どもたちは、ただ「遊ぶ」のではなく、遊びを“ケア”の手段ととらえ、対話を通じて高齢者との関係性を育んでいます。

活動のきっかけは、び場にある約70種類のボードゲームを子どもたちが遊びこむ中で、「この楽しさを地域のシニアの方にも届けたい」と思ったことでした。

実際にやってみると、参加してくださった方がとても喜んでくれて、子どもたちは「もっと価値のある活動にしたい」と、ボードゲームとケアを専門に研究している著者の方々に中学生のリーダーの子がメッセージを作りました。それを大人がつなぐことで共創イベントが実現されました。

イベントの趣旨

子どもたちは手ごたえを自己満足で終わらせずに、より本質に踏み込んだ価値を追求するために、『ボードゲームで社会が変わる』(河出新書)の著者の與那覇潤さんと小野卓也さんに共創イベントを依頼し開催が実現されました。

今回のイベントでは、お二人の「ケア」と「場づくり」の本質と遊びの関係について考え、実際にボードゲームを通じて体感できる場を地域の皆さんと共に創りました。

8/6には與那覇さんと「ケア」についての講演会+体験会の記事はこちら

今回は、小野卓也さんにび場に来てもらって講演+対話+ボードゲーム体験を行いました。

小野卓也さん略歴

小野さんは、長年にわたりボードゲームの研究や紹介を続けてこられたボードゲームジャーナリストであり、多くの著作や翻訳を通して、その魅力を社会に広めてこられました。

 

また、住職としてお寺を支えながら、地域に「ひらかれた場」をつくり、人々が集い、学び、そして遊ぶことの大切さを伝えてきました。

 

小野さんは、「遊戯(ゆげ)」という仏教の考え方をもとに、遊びの中から人と人がつながり、安心や信頼を育てる力を著書「ボードゲームで社会が変わる」などで発信されています。。

講演会パート

大人になってからの仕事もそうですが、すべてが楽しいことばかりではありません。つらいこともあります。ただ、そうした壁を乗り越えるときに、必ずしも大きな目標を掲げる必要はないのではないか。今日のお話の趣旨は、そこにあります。


お寺とボードゲームの出会い

2017年、NHK東北地方で「みちたん」という番組に私のお寺が取り上げられました。舞台は山形県南部、山道を登った先にあるごく普通のお寺です。そこでは修行……と思いきや、実は「ボードゲーム」をするのです。

この寺には500種類以上のボードゲームがあり、人生のさまざまな一コマを体験できると考えています。日本でも古くからボードゲーム文化があり、室町時代の「浄土双六」がその原点といわれています。ゲームを通して、笑顔を取り戻したり、心が軽くなったりする光景を、私は数えきれないほど見てきました。


学校や地域での広がり

ボードゲームは、学校や学童、特別支援学級、親子行事、シニア団体など、多様な場に呼んでいただくようになりました。

  • 夏休みの学童では100人以上が参加。時間や学年でグループを分けて実施しました。

  • 幼稚園の親子行事では、小さなお子さんでも親と一緒なら十分楽しめます。

  • シニア世代も夢中で遊び、昼食後も続けたいと言われることもしばしばです。

小さな子から90歳を超える方まで、幅広い世代が一緒に笑い合える。それがボードゲームの魅力です。


交流会を支える工夫

交流会の場では次の3つの約束を大切にしています。

  1. ものを大切にする。

  2. ルールを守る。

  3. 負けても泣かない。

これらは社会に出てからも通用するルールです。負けても立ち直る力=レジリエンスを、自然に養うことができます。ゲームでは勝つより負ける方が多いものです。その中で相手を称えたり、気持ちを切り替えたりする練習ができます。


ボードゲームがもたらすもの

  • 安心感:2〜3時間を共に過ごす中で、人とのつながりを実感できる。

  • 自己肯定感:勝つことで達成感を得られ、ちょっとした成功体験になる。

  • 失敗しても大丈夫:お金や命を失うわけではなく、繰り返し挑戦できる。

  • 対等性:地位や年齢、性別を超えて同じ立場で向き合える。

これは私の著書『ボードゲームで社会が変わる』でも大きなテーマにしています。ボードゲームのテーブルは、公平で平等な「マジックサークル」です。


遊びから生まれる力

仏教には「遊戯(ゆげ)」という言葉があります。成果や効能を目的にせず、ただ楽しむ営みです。ボードゲームも同じで、子どもに付き合うのではなく、大人が本気で楽しむことが大切です。

また、ボードゲームは国や言葉を超えた交流も可能にします。ドイツでは難民と地元の人々が一緒に遊び、相互理解を深めています。「遊びながら寛容性を養う」ことができるのです。


おわりに

ボードゲームを通じて、人は誰でも笑い合い、対等に関わることができます。そこから得られる安心感や自己肯定感は、孤独を和らげ、人生を前向きにしてくれます。

今日のお話が、皆さんにとって何かヒントになれば幸いです。ありがとうございました。

対話のレポート

今回の対話は、フィッシュボールという対話のスタイルで行いました。

フィッシュボウルは良い対話を深めつつ、その内容を参加者全員で共有するための方法論です。立場の異なる参加者が、お互いの観点をよく理解し、傾聴することを促進できます。

空間の中心に、2つから10のイスを円を描くように配置します。その内側の円を囲むように、外側のイスを幾重かの円弧にして並べていきます。内側の円に座る人が対話をする人です。内側の円で行なわれている対話を外側から眺めるという意味で、フィッシュボウル(金魚鉢)と呼ばれています。

https://www.ourfutures.net/session_methods/fishbowl

それでは対話のレポートをお楽しみください。

参加者A

『ボードゲームで社会が変わる』というタイトルがずっと気になっていました。
遊びとしては楽しいし、人への気遣いも学べる。でも「社会が変わる」とまでは、正直ピンと来ないんです。

小野さん

そうですね、社会全体が大きく変わるというのは確かに難しいです。
ただ「社会」って、国や地域だけじゃなく、家族や友人関係も含みますよね。そうした小さな単位なら、ボードゲームを通じて確かに変化が生まれるんです。


参加者B

私も最近シニア向けにボードゲームを取り入れていて、その奥深さに驚いています。小野さんはどうしてそこまで夢中になったんですか?

小野さん

最初はただの趣味です(笑)。学生の頃、寮生活でテレビもなく、酒も弱いし、麻雀も苦手で…。
「じゃあ何をしよう?」となった時にボードゲームを見つけて、友人たちと遊んでいたらどんどんハマっていきました。デジタルがなかった時代の環境も大きかったですね。


参加者A

なるほど。思えばお正月に親戚とカルタや双六をしたのも似たようなものですよね。

小野さん

そうそう!お正月にみんなで集まって、子どもが中心になって遊ぶ文化が昔はありました。でも今は集まってもスマホやゲーム機で、それぞれがバラバラ。
人は周りに人がいても孤独になれるんです。本当はそうした遊びの場で「人との関わり方」を学べていたんですよね。


参加者C

私は子ども食堂を始めたばかりで、小学生が毎回たくさん来るんです。トランプやオセロはあるけど、ボードゲームを入れたらもっと楽しくなるんじゃないかと感じました。

小野さん

子ども食堂にも呼ばれたことがありますよ。でも子どもたちはやっぱり「ごはん」が目的で(笑)。
だから最初は身近なゲームで十分です。ウノやすごろく、カルタなんかも立派なボードゲームです。最近はダイソーでも100円で買えるカードゲームがあって、気軽に試せますよ。


参加者D(び場卒業生)

オンラインもいいけど、やっぱりリアルに会って遊ぶのは特別です。わざわざ集まって一緒に遊ぶ時間って大事だと思います。

小野さん

本当にそうですね。オンラインには便利さがあるけど、リアルで会うからこその喜びがあります。むしろオンラインがあるからこそ、リアルで会った時の嬉しさが増している気もします。


参加者A

オンライン講演会も便利ですが、直接会って話すと温もりが伝わってきます。遊びは特にリアルの方がいいですね。

小野さん

おっしゃる通りです。表情やちょっとした雑談はオンラインでは生まれにくい。
でも雑談の中からこそ新しいアイディアが出ることが多いんです。遊びの場は、そういう余白を自然につくってくれます。


ファシリテーター(主催側の体験)

以前の勤務先で「放課後の部室」をつくり、ボードゲームを持ち込んだことがあります。すると、普段は仕事の役割でしか見えていなかった相手と違う関係性が生まれ、新しい相談やアイディアが出るようになりました。
雑談や相談のきっかけをつくる。それが今の社会には特に大切で、ボードゲームはその力を持っていると感じます。


参加者E

息子が5歳の時に自作ゲームを作ったことがあるんです。小野さん自身はゲームを作ったことがありますか?

小野さん

学生の頃に人生ゲームの真似事をしたくらいで、本格的にはありません(笑)。
でも今は年間4,000種類の新作が出るほどの時代で、地域ネタを使った「ローカルゲーム」も盛んです。作ること自体が楽しいし、文化としても意味がありますね。


まとめ

  • 社会は小さな単位から変わる:家族や地域の場で関わりを再生する力がある。

  • リアルの大切さ:直接会うからこそ伝わる温かさがある。

  • 雑談と相談:遊びの場が自然に余白をつくり、アイディアが生まれる。

  • 創造性の発揮:自作やローカルゲームは遊び以上に文化として価値がある。

ボードゲーム体験会風景

対話の後はそれぞれ思い思いにボードゲームを楽しみました。

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