探求学習についての考察 vol.6

現代の探究型学習は好奇心のメカニズムを活かせているか?

教育実践の場で、上記のような好奇心メカニズムはどこまで踏まえられているでしょうか。現代の探究学習の多くは「生徒の問いから始める」「自主的な課題設定を尊重する」など、表面的には好奇心尊重の姿勢をとっています。しかし、科学の示す細かなポイントまで活かしきれていない場面もあります。以下、評価と課題を述べます。

肯定的側面

今日の探究型学習では、以前に比べ「生徒が何に興味を持っているか」への配慮が確実に増えました。例えば探究の授業では、まずブレインストーミングで疑問を書き出させたり、好きなテーマを選ばせたりします。これは自己決定感を高め、好奇心の火種を見つける上で有効です。また探究過程での振り返り対話も重視され、子どもたちが自分の知識の穴に気付く場面を意図的に作ろうとしています(例:「今わかっていること・もっと知りたいこと」を整理させる活動など)。

このような
メタ認知的問いかけは、まさにKiddの示す「自分が分かっていないことを自覚させる」アプローチであり、好奇心と学習を喚起するはずです。さらに、探究テーマの設定でも適度な難易度を意識する教師が増えています。簡単すぎず難しすぎない問い(=適度な不確実性)を投げかけることで、生徒の「知りたい」を持続させる工夫が見られます。この点、現代教師は好奇心曲線の存在を肌感覚で理解しつつあるように思われます。

今後の課題

一方で、現実の探究学習では好奇心を十分引き出せていない例もあります。例えばテーマが教師から与えられた場合、生徒にとって切実な問いでなければ形だけの探究になります。また「探究しなさい」と指示されることで、探究自体が外発的ノルマになり、内発的動機が削がれる危険もあります。実際、生徒から「探究の時間は自由研究というよりやらされ感がある」との声も聞かれます。これは、本来好奇心で動くべき活動に評価や締め切りといった外発的要因が絡みすぎて逆効果になっている可能性があります。

さらに、テーマ選択が自由すぎて何をしてよいか分からず戸惑う生徒もいます。この場合、
興味の種を提供するヒントが不足しており、Loewensteinのいう「プライミング情報」が足りない状態です。全く白紙から問いを出せと言われても、多くの子は困ってしまい、そのまま時間が過ぎて結局先生が方向付けするということになりがちです。好奇心を引き出すには適度な誘い水が必要であり、現代の探究ではここを軽視すると空回りします。

好奇心の持続と深まるようなプロセスをどうデザインするか?

  • 探究学習で難しいのは、最初の興味を深い学びにつなげることです。初期段階で「面白そう!」と思っても、調査や分析の段階で飽きたり壁にぶつかったりすると興味がしぼんでしまうことがあります。これは好奇心の持続に関する問題で、認知的には報酬系のドーパミン分泌が何らかの理由で低下するためと推測されます。単調な作業が続いたり、難しすぎて成功体験が得られなかったりすると、脳は「期待した成果が得られない」と判断してモチベーションを下げます。

    対策として、教師が適宜小さな成功体験(部分的成果の承認)を与えたり、新たな問い直しで再び好奇心を刺激したりする必要があります。現代の探究実践では、このモチベーション維持の仕掛けがやや不足していることが指摘されています。「調べて発表しましょう」だけでは中だるみしやすく、例えば途中で専門家に質問する機会を入れて刺激を与える、成果をSNS等で発信して反響を得る、といった外界とのインタラクションを組み込むと良いでしょう。幸い、ICTの発達でこうした工夫は容易になっており、動画発信やオンライン交流を通じて新鮮な刺激を得て再び火が付く例もあります。

次回予告

実際に探求学習を始めようとすると意外と子どもたちの好奇心を引き出し持続させることは、難しいです。次回は短期志向ではない学童だからこそできるMission Based Learningという考え方についてご紹介します。

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